
TED 科学と誇大宣伝の分離
先日の記事で紹介した映画、
WEED THE PEOPLE【大麻が救う命の物語】
に出演されているマラ・ゴードンさん(アント・ゼルダ創設者)のTED動画。
Cannabis: Separating the Science from the Hype
1996年、一人の女性の人生が大きく変わりました。その女性、マラ・ゴードンは失敗した背部手術の後、深刻な慢性痛に苦しむことになったのです。その後10年以上にわたり、フェンタニルパッチ、ニューロンチン、メサドン、ノルコなど、最終的には1日26種類もの薬物を服用する生活を送ることになりました。
体重は増え、うつ状態に陥り、仕事どころか車の運転さえできない状態。しかし最も辛かったのは、慢性痛が一向に改善されなかったことでした。急性の痛みには効果的な選択肢となるオピオイド系薬物も、彼女のような慢性的な痛みには最適な解決策とはなりませんでした。
そんな中、彼女はケイという女性と出会います。自称「ウェイク・アンド・ベイカー」を自認するケイは、毎朝ハローキティのパイプで大麻を吸っていました。当初、マラはケイを麻薬使用者として批判的に見ていましたが、ある話に興味を持ちます。ケイが慢性的な首の痛みに悩む彼氏のために大麻入りブラウニーを作っており、それを就寝前に食べることで有害な薬物を使わずに一晩眠れるというのです。
これをきっかけに、マラは医療大麻の科学的な可能性を探り始めます。カリフォルニアで大麻使用の許可を得た後、最初に直面したのは適切な使用方法の情報不足でした。ディスペンサリーで提供されるのは、ライスクリスピーやキャラメルポップコーン、チョコレートブラウニーといった食品。しかし、使用量や方法についての科学的な説明はありませんでした。
その後の探求から、マラは大麻植物には500以上の化学物質が含まれており、それぞれが医療的な可能性を持っていることを学びます。THCやCBDだけでなく、睡眠を助けるCBN、インスリンの取り込みを調節するとされるTHCVなど、様々な成分が含まれています。さらに、ラベンダーのような鎮静作用を持つリナロール、レモンのような爽快感を与えるリモネンといったテルペン類も含まれています。
特に重要なのは「エントラージ効果」という概念です。これは大麻の全成分が協働して働くことで、単独の成分以上の効果を発揮する現象を指します。チョコレートケーキを例に取ると、個々の材料を別々に食べても、完成したケーキを食べる経験には及ばないのと同じです。
医療大麻を効果的に使用するためには、適切な投与量の理解が不可欠です。治療用量とは、目的を達成するために必要な最小限の量を指します。例えば、睡眠障害の場合、8時間の良質な睡眠を得るために必要な量が治療用量となります。慢性痛の場合は、高揚感を得るためではなく、日常生活を送れる程度まで痛みをコントロールできる量を指します。
マラは最後に、医療大麻の使用を検討する人々へのアドバイスとして、必ず少量から始め、徐々に量を増やしていくことの重要性を強調しています。現在は規制された市場で適切なラベル表示がされており、自分に合った製品を探しやすくなっているものの、慎重なアプローチが必要不可欠なのです。
このブログ記事が、医療大麻に関する科学的な理解を深める一助となれば幸いです。
「カンナビス:科学と誇張を分ける | マラ・ゴードン | TEDxPaloAlto」要約
- 慢性的な痛みとの戦いとカンナビスとの出会い(00:05 – 00:51)
- 1996年、失敗した背中の手術により慢性的な痛みに苦しむ。
- フェンタニルやメサドンなど26種類の薬を服用していたが、副作用がひどく、痛みも解決しなかった。
- オピオイドは急性痛には効果的だが、慢性的な痛みには適さないと気づく。
- カンナビスへの偏見と興味の芽生え(00:51 – 01:57)
- ある女性が「ポット・ブラウニー」で彼女の恋人の慢性痛を和らげていることを知る。
- カンナビスには科学的な根拠があるのではないかと考え始める。
- カンナビスの処方の現実(01:57 – 02:30)
- カリフォルニア州の医師にカンナビスの処方を求めたが、渡されたのは薬局リストのみ。
- 「高級な薬局」へ行くと、お菓子のような形のカンナビス製品が並んでいたが、適切な使用法は教えてもらえなかった。
- カンナビス市場の実態と学び(03:08 – 04:18)
- カンナビス関連イベント「ヒームコン」に参加するも、文化的な偏見や騒音に圧倒される。
- しかし、カンナビスが様々な病気(過敏性腸症候群、社会不安、慢性痛など)に使われていると知る。
- 自分で実験と研究を開始(04:18 – 05:49)
- カンナビスを購入し、オイルを作成。摂取した瞬間、痛みがレベル8から2へ大幅に軽減される。
- 医者がこの選択肢を一切提示しなかったことに疑問を持つ。
- 医師が適切にカンナビスを処方するために必要な要素(ラボテスト、患者情報、適切な知識、投与方法)を考え始める。
- カンナビスの科学的理解(06:24 – 07:59)
- カンナビスには500以上の化学成分があり、それぞれ医療効果がある。
- THCやCBDだけでなく、CBN(睡眠作用)、THC-V(インスリン調整)など多くの有効成分が存在する。
- カンナビスの成分が相互作用する「アントラージュ効果」が重要であり、単一成分の抽出物よりも全草を使用する方が効果的。
- カンナビスの適切な投与量と効果(08:33 – 09:43)
- 「投与量」とは、使用する量と頻度のことを指す。
- 例えば「8時間眠れる量」や「慢性痛を軽減するが、日常生活に支障がない量」など、目的に応じた適切な摂取量が必要。
- 「1:1」や「20:1」などの比率は成分の割合を示すだけで、実際の投与量ではない。
- 投与量の正しい理解(10:17 – 12:33)
- ミリグラム(mg)は成分の重量、ミリリットル(ml)は液体の体積であり、混同しないことが重要。
- 例えば、「THCが30mg/ml含まれるオイルを使用する場合、5mgの投与量なら5滴、20mgなら0.75ml摂取すればよい」。
- カンナビス製品の選び方と安全な使用法(13:10 – 14:22)
- 現在は規制された市場があり、適切なラベルがついているため、安全な製品を選べるようになった。
- 初めて使用する場合は「少量から始めて、徐々に増やす」のが基本ルール。
- まとめとメッセージ(14:22 – 終了)
- 自分に合ったカンナビスの使い方を見つけるには、適切な情報と科学的知識が不可欠。
- カンナビスに関する偏見をなくし、正しい方法で使用することで、健康的な生活の選択肢を広げられる。